社員の幸福を仕組み化する会社
会社より社会とかかわれ」とサイボウズの青野社長は語ります。
「家事や育児から学ぶことが多い。仕事だけでは関われなかった病院や学校、パパ友や
ママ友の世界が広がった。以前の僕は会社人であり、社会人ではなかった。僕は育児を通じて社会を知ることができ、経営者としての意思決定の水準も上がったと思う」
(2019/2/20 日経電子版)
なぜこのような発想を持つようになったかというと、2005年当時のサイボウズはベンチャー企業によくある長時間労働が常態化する環境やM&Aの失敗による業績低迷が重なりました。その結果、離職率が28%まで高まって、83名いた社員のうち23名が辞めていくことがありました。それに危機感を抱いた青野社長が働き方改革に乗り出したことに始まります。
そして働き方改革の目的は生産性を上げることではなく社員の幸福度を増やすことだといいます。
この社員の幸福度を増やすことを経営コンサルタントとしてビジネスモデルの視点で説明したいと思います。
■サイボウズの会社内容
1997年設立当初からグループウェアの開発販売を行い2000年に株式上場。主力商品の中小企業向けグループウェア「サイボウズOffice」は国内トップシェアを誇ります。
グループウェアとは「企業内部の情報共有」「ワークフローの整理統合」「チームワークの向上」などにより業務の効率化を図ることを目的としています。
具体的には「顧客リスト」「売上表」「日報」などの共有や社員同士の「スケジュール共有」などの機能があげられます。
■サイボウズのサービス商品内容
主な商品は中小企業向けグループウェア「サイボウズOffice」、大企業・中堅企業向けグループウェア「Garoon(ガルーン)」、データベースサービス「kintone」などとなります。
その競合はIBM、マイクロソフト、グーグル、セールスフォースなどIT業界の巨人ともいえる名だたるグローバル企業がひしめき合う状況のなか、創業以来、日本人ユーザーに向けたきめ細かい対応や使いやすさで確固たるポジションを獲得しています。
■サイボウズの戦略とは?
創業以来グループウェアに専従し「グループウェア世界トップシェア」を目指しています。そして注目すべき大きな変換点は、商品販売の主力を創業以来のパッケージ販売からクラウドサービスへと移行したことです。パッケージ販売は顧客がバージョンアップ版やユーザーサポート契約に入らない限り、購入時だけの1回限りのフロービジネスとなります。それがクラウドサービスでは継続して課金されるストックビジネスとなります。
2011年から本格稼働したクラウドサービス事業は、当時40億円の売上高しかない会社にもかかわらず、19億円の累積赤字を出しながらも開発が続けられました。上場企業である以上、株主からの批判も多かったと思われるなかでクラウドサービス比率を高めたことにより、現在の安定的な売上と利益を実現したといえるでしょう。
■サイボウズの幸福度を高める経営の仕組みとは?
この安定的な売上と利益が社員に心の余裕を与えて、幸福度を増すことにつながるのです。
合わせて、新しい人事制度を取り入れて「働き方改革のリーダー企業」のポジションです。それは会社では人事評価をせずに、「あなたが転職したらいくら?」という転職市場での評価で賃金を決めるという新しい考え方の制度を採用しています。
これは、そもそもヒトがヒトを評価することの難しさと、働き方改革を推進する中で「社員」「外注」「副業」などの立場や仕事の仕方が絡まりあい混とんとして、評価の難易度が更に高まるという状況への打開策から生まれたそうです。
さらに「育児休暇や介護休暇を最長6年取得できる制度」「働く時間等をライフスタイルの変化に合わせて選択できる制度」「業務時間以外であれば副業を認める制度」など社員に多様な働き方を提供しています。
■サイボウズの今後の展望とは?
このように新しい仕組みを経営に取り入れながら、「離職率が低くなった」という結果に繋がりました。しかし、きつい職場環境が緩くなって居心地が良くなった…ということではなく、本当の意味での「社員の幸福度」の検証はこれからが本番かもしれません。
今後、一見矛盾した要素をはらむ「会社の継続」と「社員の幸福」という永遠の課題にも真剣に向き合いながら、どのような仕組みで青野社長が経営の舵取りをするか注目してまいりましょう。
*参考文献
・「シェアNo.1の秘訣」財界研究所 著:日本IT特許組合
・「会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない」
PHP研究所 著:青野 慶久
・「チームのことだけ、考えた」ダイヤモンド社 著:青野 慶久