「ブランディング」できないと生き残れない

コンサルティングしている顧客企業から『固定客ができにくいので、単に好きというレベルの顧客ではなく「顧客のファン化」をできないか?』という相談がありました。

 

その「顧客のファン化」の成功例として思い出したのが、ビールメーカー「ヤッホーブルーイング」です。ヤッホーの井出直行社長の著書「よなよなエールがお世話になります」を読みなおしてみました。

 

一見奇をてらったようなこの会社のやり方ですが、ブランディングの教科書からすると基本に忠実にやり続けることで成功している会社といえます。

 

「ヤッホーブルーイング」は設立1996年、ホテル業界で活躍中の「星野リゾート」星野佳路氏が創業者となり、長野県軽井沢に本社があります。主力商品は「よなよなエール」「水曜のネコ」などのクラフトビール(職人がつくるこだわりのビール)です。クラフトビールメーカーでは国内最大手ですが、現状ビール市場のシェアでは、クラフトビールは1%にも達していない小さなカテゴリーです。

 

創業当時は全国的な地ビール・ブームに乗り売れますが、流行の終焉とともに店頭で売れなくなり倒産の危機となります。そして復活のきっかけは当時営業部員だった井出社長が始めたインターネット通販です。やはり当初は売れませんが、メルマガでクラフトビールならではのうんちく、醸造設備などを説明しているうちに少しづつ売れていきます。

 

ターゲットは「知的な変わり者」、近くの店頭で手軽にビールが買えるのにもかかわらず、インターネット通販で高いビールを銘柄指定して買うようなこだわりの人の意味です。

 

その「知的な変わり者」へ向けたプロモーションは

 

  1. 目に留まる
  2. 強く記憶に留まる
  3. 口コミしてもらう

この3つを揃えて業界初、インパクト、ユニークさを求めて売上に求めません。

例えば「夫婦幸せ50年セット」販売です。夫婦1組限定で450万円支払うと50年間ずっとビールを届けるという企画で、メルマガで告知したところ読者から大うけしました(結局申し込み者はなし)。別の例では、会社の飲み会で上司が先輩風を吹かすとAI(人口知能)が感知して、本物の風が吹き出る扇風機を貸し出したりしています。

 

さらにそれぞれの商品ターゲットでは大手メーカーでは真似できない思い切った絞り込みを行います。例として「水曜日のネコ」というホワイトビールは、週のまん中に低アルコール飲料を飲んで、また明日からがんばろうとする都市部で働く30代女性を想定しています。

 

このような尖がったネーミングも含めた商品開発、プロモーションによって特定の強固な顧客をつくり、ファン化さらには伝道師となるような仕組みをつくっているのです。

 

そのロール・モデルとして「ハーレー・ダビットソン」を意識しています。ハーレーはバイクだけを売っているのではなく、ハーレーに乗るかっこいい自分を演出できるという情緒的価値を売るという考え方です。これに対して「ヤッホーブルーイング」は「ビールを中心としたエンタテインメント」を売ると捉えています。

 

そのために「お客様との密着プレー」として、イベントやSNSなどを通じ、共感する、理想像の実現、自己確信、癒される、仲間をつくる等の活動で「顧客のファン化」を行っています。

ブランディング」とはその顧客を集める引力と考えます。

 

創業者の星野氏が「個性豊かなビール文化を日本に根付かせたい」から生まれた「ヤッホーブルーイング」は、社長となった井出氏にも受け継がれて少しずつ現実となってきています。

 

ビール離れと言われ市場全体では縮小傾向ですが、クラフトビールのシェアは17年0.7%から21年3%の予測もあり存在感が大きくなってきています。大手のキリンビールも「ヤッホーブルーイング」を含めたクラフトビールの販売に乗り出しました。

 

この成功は「個性豊かなビール文化を日本に根付かせたい」という夢を本気で描いて実行する力から生まれたと感じます。次にターゲットを絞る込み、強固な顧客をつくるために勇気をだして躊躇するほどの商品開発、プロモーションによって支えられたブランディングの成功といえます。